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◎IKEAとは何か?

IKEA(イケア)は北欧スウェーデン発祥の世界最大の家具メーカー。
安い価格やおしゃれなデザイン、アフターサービス面のよさなどが顧客から評価され、世界中で愛されている企業のひとつです。2015年8月時点で世界43カ国で事業を展開し、28カ国に328店舗を営業しています。

製造部門の子会社「スウェドウッド」、サービス部門を統括する「イケアサービス」、デザインや商品企画などを担当する「イケア・オブ・スウェーデン」をはじめ、各国の販売子会社を傘下にもち、そのすべてを指して「イケアグループ」と呼ばれています。
日本において店舗を展開しているのは「イケア・ジャパン」。
2002年(平成14年)7月に設立された法人で、現在日本全国9つの店舗が営業しています。

イケアの商品数は2016年8月現在で9,500点。
そのうち、2,500点の商品が毎年見直されて、新商品と入れ替わります。

◎IKEAの特徴

・家具の組み立ては自分たちで行う
・全ての商品にスウェーデン語の名前がついている
・店舗には子供を預けられる託児スペースがある
・店舗内にイケアのレストランがある
・会員カード「IKEA FAMILY」がかなりお得

IKEAの良いところ
大手家具メーカーの中では最も安い
北欧メーカーらしいおしゃれなデザイン
IKEAストアが楽しい

IKEAの悪いところ
素材・耐久性に劣る
組み立てが面倒くさい、または難しい
配送料が高い
店舗数が少ない

◎顧客をつかんで離さない「IKEA効果」の経済学

 イケアは1943年にスウェーデンで設立された世界最大の家具販売店です。世界30以上の国と地域に250店舗以上を設け、その従業員数は10万人を超えています。イケアの特徴は低価格と優れたデザインにあり、また、郊外に大規模な店舗を構える手法を世界中で採用しました。日本では2006年に船橋で1号店がオープン。現在は8店舗、2020年までには14店舗になると計画されており、日本においていかにビジネスを拡大しているかが分かります。

 イケアで販売される家具は、顧客自らが家具の運搬・設置・組み立てを行う「DIY(Do It Yourself)」方式を前提としています。安価な素材を自分で加工するため、予算が抑えられるのはもちろん、単に家具やインテリアを買うよりも、より大きな充実感や満足感が得られるのが魅力です。

 顧客は倉庫のような店舗で目当ての商品を見つけ、運搬しやすいように商品が細かく分解されて小さく梱包された「フラットパック」を、自宅まで持ち帰り、自身で商品を組み立てます。通常は販売店が行うべき配送や組み立ては、有料のオプションサービスになっているのです。

 通常、人は手間のかかる作業を嫌うものです。それなのになぜ、イケアの顧客は手間のかかる製品の運搬や組み立てを消費者が進んで行うのでしょうか? 製品を自分で組み立てたときに、その製品の質を過大評価してしまう傾向は「イケア効果」と呼ばれ、行動経済学の研究対象となりました。

 ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン教授が行った調査では、被験者に折り紙を折らせ、それを折り紙職人の作品と一緒に並べさせました。それぞれ、いくら払って買うか尋ねたところ、被験者は自分が作ったものに、より高い値段をつけました。製品の品質に関わらず、自分の労働に価値があると感じる心理を利用するため、イケアは人気を集めるのです。

◎「ファスト家具」として日本人の感覚を変容させたIKEA

イケアは家具を「嫁入り道具」から、「引っ越しやライフステージごとに買い換えるもの」に変容させた。「ファストフード」「ファストファッション」なる言葉があるが、さながら「ファスト家具」とでも呼んだらいいだろうか。もちろん、イケア自体は使い捨て家具のイメージを否定しているものの、格安のイメージから、実際にイケアで何度も買い換える人は少なくない。

ほかの家具小売業よりも鮮明に、人々の生活を想起させる展示手法。「スウェーデンの生活文化そのものを売る」ことを掲げるのがイケア流である。大塚家具の停滞に象徴されるように日本の家具市場が低迷する中で、イケアはなぜ存在感を増すことができたのか。あまり知られていないが、イケアはかつて1974年に日本へ進出し、1986年に撤退した歴史がある。つまり日本再挑戦に成功したというのが事実なのだ。それも含めてここで冷静にイケアの歴史と強みを分析しておこう。

イケアは、イングヴァール・カンプラード氏が1943年に創業した雑貨販売店をルーツとする。わずか17歳のときだった。商売欲旺盛かつ、商才のあったカンプラード少年は次々に取り扱い品目を拡大していく。その5年後、イケアは家具のディスカウント販売を開始する。理由は単純。創業の町に家具メーカーが多かったからだ。1951年には家具専門店となった。

イケアの海外進出は、創業から20年後だ。1963年にノルウェー、1969年にはデンマークへ出店した。海外に出たのは積極的な事業拡大ではなかった。当時スウェーデン国内の小売業者から反イケアの動きが出てきたことで、国内では安泰でなくなったために海外に目を向けたのだった。実際にスウェーデンでは家具メーカーがイケアへの納入をとりやめる例があったようだ。

その後、主要国ではドイツ1974年、カナダ1976年、米国1985年、イギリス1987年、ロシア2000年と進出していった。イケアは中東には子会社ではなくフランチャイズで進出している。

◎一度は日本進出失敗も……

前述したが意外に知られていないのは、イケアが一度、日本進出に失敗した歴史だ。三井物産や東急百貨店などとの合弁でIKEA日本(株)を設立。2店舗の運営を1974年に開始したが、不振のため1986年に撤退した。当時は売り場面積が3000平方メートル程度しかないうえ、商品数も少なく、今のような本来のイケア商法とは乖離している側面があった。

日本再挑戦は2006年。イケアグループ全額出資の第1号店が千葉県船橋市にオープンした。創業者のカンプラード氏は、日本再進出の成功を疑わしく思っていたようだが、前回とは条件が違った。バブル崩壊後の日本の地価暴落は、大規模展開を手法とするイケアにとって都合がよく、安価な商品が抵抗なく受け入れられる素地がデフレ経済のもとでできあがっていた。

ただし、当時、日本は家具製品の内含するホルムアルデヒド(有機化合物)量の規制が、世界でもっとも厳しかった。イケアはこれを逆手に取った。日本の厳しい基準が世界的な水準になると想定して、日本向けの基準まで引き上げるべく、商品開発と生産を刷新したのだ。むしろ他社に先駆けた動きとなった。ここで、日本市場での成長の礎ができあがった。

◎成功の理由は何なのか?

では、なぜイケアは日本市場で成功したのか。理由を3つ挙げたい。

成功の理由①:徹底したコスト管理

ひとつめは、徹底したコスト管理とそれによる安価な商品の実現だ。

イケアには、創業者カンプラード氏の徹底したコスト抑制の文化が根付いている。それはさまざまな試行錯誤を経て、発明された施策も多い。

たとえば平らなダンボールに家具をパーツ単位でコンパクトにまとめる「フラットパック」。イケアの家具は買った客が自分で組み立てるという特徴があるが、これは物流費の削減のために編み出されたアイデアだ。家具を配送時に傷つける回数も削減でき、保険費用も抑制できた。よってイケアのデザイナーは、デザインした家具がフラットパックになったとき、40フィートコンテナに何個積めるかを計算しなければならない。

イケアはいわゆるファブレス企業で、他社の生産ラインを使って商品を仕入れる。その商品もコストの安い国を徹底活用している。これがイケアにとって最も重要な経営戦略のひとつでもあった。

イケアのコンセプトには「イケアと顧客が力を合わせることで、お金を節約できる」という考えがあります。イケアはデザインや大量仕入れを行い、顧客はセルフサービスによる運搬や組み立てを行うという分業を徹底し、コスト削減が実現できます。

 また、組み立て説明書は文字に頼らない簡素なスケッチで描かれた独特のデザインをしていますが、シンプルさを好むイケアと顧客の関係性を良く表しています。さらに、セルフサービスはさらなるコスト削減を可能にします。商品陳列や顧客対応が少ないため人件費が削減できる、フラットパックの採用により物流効率を削減できる、といった利点があります。

 また、イケアは自社工場を持たない、いわゆる「ファブレス企業」の形態をとっています。製品開発においては、顧客と商品供給業者の距離を縮め、コスト削減を図っています。イケアは徹底的に市場調査を行い、顧客が求めるデザインや価格を調べます。供給業者にはコストの積み上げではなく、目標とする価格に収まるよう発注を行います。世界中で同じ製品を取り扱っているため、大量発注が可能となり、調達価格の抑制をすることができます。

 東欧やアジアにある低価格で大量生産を行える工場とデザインとマーケティングに優れたイケアが「力を合わせてコストを削減している」というわけです。

◎生産拠点の確保に長けていた

かつての冷戦時代に、スウェーデンは中立国だった。その立場を活かして、ポーランドの安価な労働力を活用できた。大量に商品を生産するため、安価な労働力のメリットを享受できる体制は、昔からだった。イケアは東欧の業者からの仕入れを増やした。ベルリンの壁崩壊後に東欧諸国が力を失う中、イケアは生産拠点をアジアに移していった。

同時に仕入れ業者を絞ることで、1社あたりの購入量を増やし交渉することで、価格を引き下げていった。その集中ぶりは徹底しており、業者はほぼ100%イケア向けの商品を生産した。イケアは商品コストを毎年2パーセントほど下げ続けることを経営目標に掲げているほどだ。

さらに、1円でも(0.1ユーロでも)無駄遣いしないとする精神が生きる同社は、やはり創業者の影響が大きい。カンプラード氏は、世界屈指の資産家になったあとも節約を忘れず、たとえば飛行機は必ずエコノミークラスを使った。メディア向けの会見場に地下鉄を使って移動し、さらには「高齢者割引」を使ったこともあるという。節約が全社員に徹底されており(これ自体はすばらしいことだ)、イケア社員はどんな役職であっても飛行機はエコノミークラスを使って移動するようだ。

成功の理由②:外資でありながら日本国内を向いたマーケティング

商品企画時に、競合他社と比して訴求力のある価格を決定する。その価格にミートする機能やデザイン、品質を作り込んでいく。今なら「非原価主義」と呼ばれる考え方を、イケアはかねてより実践していた。補足しておくと、これに対して「原価主義」なる方針がある。厳密ではないものの、原価主義とは発生する原価に利益を加算し売価を決定するもの。非原価主義は、売価と利幅を決定したのちに、その原価に見合う仕様を考えるものだ。

イケアには純粋な日本向けの商品はなく、世界統一ラインナップの中から日本にマッチした商品を展示する。そのため、どれを日本で売り出すかのリサーチは徹底している。日本進出に際しては、相当な数の住宅事情を調査。各国の生活にあわせた提案のため、進出時だけではなく、定期的にお客の自宅に訪問するほどだ。またイケアグループのミケル・オルソンCEOも来日時に、日本の住宅を訪問している。

◎目をつけたのはリビングよりもベッドルーム

イケアはリビングよりもベッドルームに商機があると発見した。一家団欒から、生活は個に移っていく。自宅の個室やあるいはベッドルームで長時間過ごす人も多い。すると、それまで「寝る場所」だったベッドルームは、「英気を養い」「楽しみ」「くつろぐ」場所に変わっていく。イケアはベッドルームに小家具を配置するだけで、あるいはカーテンを変えるだけで、違った日常が楽しめることを提案した。

新商品開発も猛烈な勢いで進めている。イケアの店舗には約1万点の商品が置いているが、その入れ替わりも含めて1年に約1500点もの新商品を開発するという。店舗には「ルームセット」や商品比較のための「メディア」などの展示場にわけ、それぞれでくまなく商品を陳列していく。

もちろん、各国ですぐさま現地にあった家具を展開できるわけではない。ただし、イケアは非上場企業であるのを活かし、子会社を設けた国では辛抱強く現地に認められる小売店を目指し試行錯誤した。さまざまな資料を読むと、利益は中長期的な視点で狙い、短期的には追わない。

・成功の理由③:店舗の遊園地化

イケアは家具小売業でありながら、明らかにエンターテイメント型店舗を目指している。「時間消費型店舗」ともいえる。筆者の周囲にも、特別な用事はなく、食事を楽しむためと「なんとなく」イケアに行くひとたちがいる。そこは、買い物する場所ではなく、気づいたら買い物をしていた遊技場に近い。

ディズニーランドは、意図的に地面を窪ませ実態以上に奥行きを見せている。また、建築物は上階ほどサイズを小さくしている。それにより、おなじく実態以上に建物が大きく見えるからだ。そしてわざと道を曲げ距離を長くすることで、滞在時間を延ばしている。おなじくイケアも店内をくまなく歩く構造となっており、かつじっくり見るためには、何度か店舗に足を運ばねばならない。

◎買いたいよりも「行きたい」

おそらくイケアが目指しているのは、ディズニーランドよりも「行ってみたい遊戯施設」であり、ショッピングモールよりも家族がレジャーとして行ける空間なのだ。店内滞在時間が2時間を超える客層は大半がイケア内のレストランを使用する。

フラットパックを導入しているイケアの家具は、お客自身が組み立てなければならないものの、お客は意外なほど拒絶感を持っていない。もちろん、組み立てることを理解して店舗に向かうからでもあるが、たいていは出費を抑えるためには仕方がないと理解を示している。かつてイケアの経営者は、「イケアをディズニーランドにしたい」と語ったそうだが、まるで組み立てるのを楽しむお客は、イケア家具をおもちゃ屋でかつて買ったプラモデルになぞらえているのだろう。あるいは宝島から持ち帰った戦利品か。

もちろん企業の発展分析とは、いまを切り取った「あとづけ」の理屈付けにすぎない。しかし少なくとも、現時点ではこの3点が強みと私には感じられる。もちろん、これはイケアの発展を手放しに予想しているものではない。

大塚家具は、このようにモデルも考え方も異なるモンスターを相手に、どのように挑むのだろうか。イケアはあくまで低価格帯の客層を狙い、大塚家具は中価格帯以上の客層を狙っているのだ、と大塚家具は言うのだろうけれど――。